茅葺屋根やL字型の構造が特徴的な曲家(まがりや)が軒を連ね、懐かしい日本の原風景を今に伝える南会津町舘岩地区の「前沢曲家集落」。その中にある資料館で週に一度、案内役をつとめる江井翼さん。他にも地域の仕事を数多く担当していますが、メインの仕事は、豆腐づくりです。
廃業を考えていた豆腐屋さんの設備を譲り受け、「えねいとうふ店」としてオープン。南会津の水で仕込み、今では珍しい釜炊きによる、こだわりの豆腐づくりを続けています。
もともとは都内のIT企業でシステムエンジニアとして勤務していた江井さん。東京での生活は、安定した仕事で給料も悪くなく、特に不満はなかったと言いますが、「この先何十年も続けていくとなると、違うのかなと思ったんです」と振り返ります。
そんな中、茨城県つくば市にて週末農業に参加することに。貸し農園を借りて作物を作っていたら、すっかり農業に魅せられてしまったと言います。「農業というのは、生活に直結している人間らしい営みだと感じ、そこに惹かれるものがありました。いずれは農業の道に進むのもいいなと思い始めたんです」。
その後、仕事を辞め、千葉県にある農業生産法人で約3年間農業を学び、地域おこし協力隊に応募したことをきっかけに、2015年に南会津町に移住。たのせ地区を拠点に農産加工や6次産業化に取り組み始め、地域を見てまわる中で、次第に豆腐づくりに興味を持つように。
「大豆は生産から加工、販売までできます。使用する水の質によっても品質が変わってくるし、奥深く、面白いなと。農産物加工品としての魅力にどんどん惹かれていきました」。
やがて協力隊の任期満了が迫り、これからどう暮らしていくかを考えていた際に、もともとやりたかった農業に加え、豆腐製造をやっていけたら…との想いを強くするようになった江井さん。そんな折、隣接する川衣(かわぎぬ)地区の豆腐店が廃業するとの話が耳に入ります。
「とても残念だったので、挨拶に伺うと、『よかったらこれを使ってくれないか』と、豆腐製造機器を譲り受けることになったんです」。