首都圏から車で3時間ほどの距離にある田舎の原風景が残る集落。夜は360度の星空が頭上に広がります。東京都大田区出身の進士徹さんがこの土地に移り住んだのは30年前。大学卒業後、女優の宮城まり子さんが主宰する社会福祉施設『ねむの木学園』に勤務。仕事にやりがいを感じる一方で、家庭を持っても子育てに関わることができない多忙極まる日々に疑問を持った進士さんは、子どもを自然豊かな環境でのびのびと育てたいと思い、同じ考えを持った同僚と3家族で子どものための山村留学施設を運営しようと決意します。
進士さんたちは山村留学運営の意志を伝えるため、過疎化が進んでいる自治体に物件の紹介依頼の手紙を60通以上送りました。当時は移住希望者を受け入れる体制が整っていなかったこともあり、紹介してくれる自治体は見つかりません。「唯一、鮫川村役場から村長が会いたがっていると返事が来たんですよ」。村長との面接に臨んだ進士さんたちは、ねむの木学園での勤務実績や人柄が評価され、鮫川村から廃校になった小学校の分校跡地を貸りられることになったのです。
「開校準備はできたものの、なかなか入学希望者が集まらなくて悩みました」と進士さんは振り返ります。突破口は進士さんたちの山村留学施設が新聞で取り上げられたこと。掲載直後から問い合わせの電話がひっきりなしにかかってきたといいます。高校生も受け入れる進士さんたちの山村留学は全国から注目され、1989年4月、29人の子供たちを迎えスタートしました。