鶏卵を中心に生産している小林正典さんの1日は、鶏に餌を与えることから始まります。イノシシなどの野生動物が畑を荒らさないよう、見守りも欠かせません。東京で同じ会社に勤めていた小林さん夫妻が農業をやりたいと思ったきっかけは、休日に2人で愛枝さんの実家の畑を訪れ、採れたての野菜を食べたときでした。
「何気なく食べたスナップえんどうがとても甘くてビックリしました。こういう作物を自分で育てて食べられる生活がしたいと思いました(正典さん)」。
「私も東京で育ちましたが、自然豊かな場所で農的な暮らしがしてみたかったんです。2人で移住先を探し始めました(愛枝さん)」。
2人は、移住の1年前から都内のNPO法人ふるさと回帰支援センターを訪問したり、各自治体が開催する移住セミナーを受講したり就農について調べはじめました。
「都内のイベントで二本松市東和地区が耕作放棄地を畑に戻す取り組みをしていることを知りました。抜根して整地し、畑として蘇らせることはとても大変な作業ですが、私にとっては、自分で畑を一から作れることに魅力を感じました」。
直接東和地区を訪ねてみた小林さん。そこで里山の風景や温かい人柄に惹かれ、ここで農業を始めることを決断します。
「2011年3月11日付けで会社を辞め、中旬には農業研修を受ける予定でした。でも、東日本大震災で受け入れ先と連絡が取れなくなってしまい、だめなら引き返す覚悟で荷物を車に載せて二本松に来たんです。震災直後の大変な状況にもかかわらず、研修先の農家さんは私たちを気持ちよく迎えてくれて。東和地区を選んで良かったと改めて感じました。1年後には研修を終え、畑も出来上がり、目指していた無農薬の米と野菜作りを始めることができました」。