INTERVIEW

#43

まっさらな状態で飛び込んだ自分らしい生き方

福島県 いわき市 在住 久保田貴大さん
1995年生まれ。長野県安曇野市出身。都内の大学を卒業後、地元の銀行に就職するも、体調を崩し1年で退職。Twitterでの出会いがきっかけで、ライターのアシスタントとしていわき市へ移住。現在は「NPO法人中之作プロジェクト」の職員としてシェアハウス「コウノヤ」の運営・管理を担うほか、ライターとしても活動中。

Twitterをきっかけにいわきに移住

いわき市の中之作地区は古くからの港町。震災以降、防潮堤の建設が進んだいわき市では珍しく、家々の間からも海が見え、昔ながらの風景を今に残しています。
この町を拠点に活動する「NPO法人中之作プロジェクト」の一員として、シェアハウス「コウノヤ」の運営を行う久保田貴大さんは、長野県安曇野市出身の26歳。2020年の4月にいわき市に移住し、1年が経ちました。
「いわきは気候が穏やか。生活の面ではありがたいのですが、冬に雪が見られないのは少し寂しいですね(笑)」
山に囲まれた安曇野市から、太平洋を臨むいわき市へ。風土も暮らしぶりも異なる環境へと飛び込んだ背景には、ある人との出会いがありました。いわき市で文筆家として活動し、「ローカルアクティビスト(地域活動家)」を名乗る小松理虔さん(https://fukushima-stage.jp/riken-komatsu/)です。当時、久保田さんは都内の大学を卒業して地元・長野の銀行に就職したばかり。しかし環境に馴染めず精神的に参ってしまいます。

「もともと地元が好きで、地元で働くことも納得の上だったのに、思うようにできなかったことがショックで。その時に小松さんの本を読みとても共感したんです。その後、小松さんがTwitterでアシスタントを募集していることを知り、すぐに応募しました」
地元を愛する気持ちはあるのに、そこで暮らしていくための立ち振る舞い方ががわからない。そんな感覚に悩んでいた久保田さんにとって、小松さんは地方で生きる術を身につけた師匠に思えたのかもしれません。地元でもう一度再起を図るための学びの場として、いわきへ移住すること決めました。

取材の日々から居場所作りへ

当初、いわきと聞いて久保田さんがイメージしたのは“被災地”。しかし、実際に訪れてみるとそれ以上にさまざまなカルチャーショックを体験することになります。そのひとつがコミュニケーションです。
「いわきの人はオープンで包容力があります。僕が育ったのはよそ者を受け付けない保守的な地域だったので、あけすけな話しぶりに最初は戸惑いました」
与えられる仕事も初めてのことばかり。鮮魚店のマーケティングや広報、「海と日本プロジェクト」の取材やインタビューと、いわき中を走り回る日々が続きました。現在所属するNPO法人も当時の取材先だったそうで、久保田さんの仕事ぶりを見た代表から声をかけられたことを機に、小松さんのアシスタントを卒業し、職員として働くことになりました。シェアハウス「コウノヤ」は、空き家の再生や建築を主体としたまちづくりを担うNPOのプロジェクトのひとつ。久保田さんが実際に暮らしながら、ワークショップなどの機会を設けて希望者とリノベーションを行っています。
「ここでの暮らしをインスタなどで発信していくうちに手伝ってくれる人も増えてきました。当初は移住者を想定していましたが、意外にも地元出身者の人たちが集まってくれています。地元出身なのに地元に居場所がないと感じている、自分と同じ経験をした人が多いので、そういう若者も気軽に来てもらえるような場になればと思っています」

中之作地区にはかつて、“一船一家”と言って、同じ船に乗る者同志は家族同然の共同生活をする習わしがあったそう。血縁関係にこだわらず、人と人が支えあって生きていた時代の土地の記憶を、久保田さんたちのシェアハウス「コウノヤ」は受け継いでいるのかもしれません。
久保田さんが執筆した記事

一歩踏み出すことが人生を変える

世代問わずさまざまな出会いに恵まれ刺激を受けてきた一方で、心の内を話せる友人がおらず最初は辛かったと言う久保田さん。シェアハウス「コウノヤ」を始めたことで、同年代の友人ができ、いわきでの暮らしも楽しめるようになりました。都合がつく仲間同士で映画を見たり食卓を囲んだり、何気ない時間が心の拠り所となっています。そして、そんな久保田さんたちの活動を近所の人たちも温かく見守ってくれているそう。
「地域の人たちがオープンに受け入れてくれるので、自分に自信のなかった僕でも活動できているのを実感しています。もしいわきに来ていなかったら、ひたすら病んでいたでしょうね。自分から行動することを一生しないままだったんじゃないかな。ここに来ていろいろな役割を与えもらってよかったです。生きてるな、と感じます」
そんな自らの体験から、今後移住を考えている人には「まずは、何も考えずに飛び込んできてほしい」と語ります。
「例えば仕事面でも、就活サイトや転職サイトで探すより人づてで紹介してもらったほうが地方では良い仕事にめぐり合えると感じます。そのためには、移住の前に地域のキーマンとSNSなどで積極的に繋がって話を聞いたりすることも大事。そこから新しい出会いが生まれたり、やりたいことができる可能性も広がるのではないでしょうか」
今後の目標は、「シェアハウスを孤独を感じている若者にとって居心地のいい場所として整備し、持続可能にしていくこと」。いずれ自分がシェアハウス運営から離れた後でも、持続できるよう土台作りを進めています。
「いわきにはチャレンジできる土壌がある」と語る久保田さんの晴れやかな笑顔からは、悩み抜いた上で地方で生きる意味を見出し、たくましく歩んでいこうとする決意が感じられました。
リノベーション真っ最中のコウノヤ
━━取材を終えて
これまで移住のきっかけは、「生活環境を変えたい」や「パートナーの地元で暮らす」などがほとんどでした。しかし昨今は、特に若い世代で“人”を理由に移住を選ぶ方が増えています。
地域で活躍するキーマンやプロジェクトに共感し、ともに働きたいとやって来ることで、彼らのいるエリアはどんどん活性化し、さらなる移住者を呼んでいます。今はSNSで気軽にコンタクトを取れる時代。移住先に迷ったら、地域のキーマンを探してみてはいかがでしょうか。

(掲載:2021年11月)

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