アサノさんが故郷の福島市に戻り、活動拠点を立ち上げたのは2009年。「大学では3年間、古民家の研究をしていました。毎年、研究対象の島根県を訪ねていましたが、すでに日本全体の人口減少で建物自体が余り、地方では、都市開発のUターンの流れができていたんです。東京で何かを作ることよりも、人口が少なく、古民家がたくさんある福島だからこそ、世界に向けて先進的なものが作れるのではないかと考えました」。
特別な空間は、建物だけでは構築できないと考えたアサノさんは、業種を限定せず、『福島』という地域を限定した環境のデザインをしようと決意。建築をはじめ、グラフィックデザイン、コミュニティーデザインやプロダクトデザインを手がけます。
アサノさんの事務所の屋号は、BHIS(ビューティー・ハッピー・アイランド・スタジオ)。福島県のキャッチコピー、『うつくしま、ふくしま』をかたちづくりたいというモットーの表れでした。
アサノさんは、地域で活動をするにあたり、SNSの活用やパブリシティを計画、情報発信を意識的に行います。2010年には地元誌や新聞にコラムを掲載したり、取材を受けるなど、地元での基盤づくりも順調に積み上げていきました。福島で手掛けた最初の作品、『環境の棚』の展覧会が行われたのは2011年3月。テレビ取材で「大きな地震でもなければ3月13日には放送です」と言われたことが、今でも印象に残っているのだそうです。