INTERVIEW

#34

人とのつながりをたどり、長年の理想を実現

福島県 南会津郡 下郷町 在住 岸 正一(きし まさかず)さん
神奈川県川崎市出身。大手通信機器メーカーの技術職を定年後、かねてより縁のあった南会津地域の下郷町へ移住。
野外ライブステージやカフェを備えた自宅兼天文台「十文字星見台」をオープンした。

偶然出会った南会津の地に魅せられて

紅葉の名所で知られる観音沼森林公園のほど近く、下郷町十文字地区に小さな天文台があります。
中学時代から天体に興味があったというオーナーの岸正一さんは、2018年1月に川崎市から移住。カフェスペースや野外ステージを備えた自宅兼天文台をオープンしました。
「定年したら星がきれいに見える場所に別荘を建てたい」と考えていた岸さん。
以前よりたびたび訪れていた南会津で、候補となる土地を見て回っていた時、知人のツテでたどり着いたのが下郷町だったそう。

「正直、星を見るだけであれば、他にも適した場所があったかもしれませんが、この地を選んだのは人とのつながりが決め手でした。南会津には昔から通っていて知り合いも多く、周りに相談できる人がいるのは移住する上で心強かったです。」

もともと大手通信機器メーカーの技術者として働いていたという岸さんと、南会津との出会いはおよそ20年前のこと。
趣味の車関係の集まりで山形県に行く途中、1泊するために立ち寄ったのがきっかけでした。その際に泊まった宿の主人などと親しくなり、毎週末訪れていた時期もあるほど。訪れるたびに新たな友人も増え、いざ定年後の人生を考えた時に南会津という土地が自然に思い浮かんだと言います。

「全く知らない土地だったら、来ていなかったかもしれませんね。星もね、標高が高いせいか、思っていたよりずっとよく見えるんですよ。どれも偶然ですが結果的に良い環境だったのかなと思います。」

多彩なイベントを企画し地元に貢献

「十文字星見台」では、天体観測とBBQ等を組み合わせた一般観望会を季節ごとに開くのに加え、フラメンコやフォークロックのライブなども不定期で開催(令和2年8月11日現在、コロナ禍の影響で中止)。

また、岸さんの予定次第で、気軽にプライベート観望会も行っています。天文ファンに好きなだけ空を観てほしいと、野外ライブステージ前にテントを張れるスペースを設けたほか、バリアフリー化にも取り組みました。野生動物に遭遇する危険や水回りの心配がなく、誰でも安全に星を観られる環境というのは実は多くないということで、特に女性や学生の利用を見込み、細やかな気配りがなされています。ちなみにカフェスペースは星を観ない人も立ち寄りOKとのこと。
提供:下郷町役場

「最初は友人たちと天体観測を楽しむことのみを想定して、観測ドームと住居だけ建てる予定でした。しかしながら、移住してただここに住むだけでは地元にも溶け込めないのではと考え、地元の方々と相談していくうちにカフェスペースや野外ステージなど、どんどん増えていきました。ここが人の集まる場所になって地元に貢献できたら、少なくとも不審な目で見られることはなくなりますよね(笑)」

異文化交流が好きで、イベントには参加するよりも主催側が合っていると語る岸さん。以前行った観望会を兼ねたライブイベントでは、県内外から100人ものお客さんが訪れ、大いに賑わったとのこと。「楽しんでいる人の笑顔を見ることが喜び」と、今後も積極的にさまざまな企画をしていきたいと意気込んでいます。

人とのつながりが理想の移住への近道

移住先で自分の夢を実現したいと思っても、それにまつわる準備を考えると二の足を踏んでしまう人が多いのも事実。岸さんのように“好き”をかたちにするためには、どのような準備が必要なのでしょうか。

「やはり周りの人間関係が最大のポイントではないでしょうか。資金面はもちろんですが、やりたいことを実現するなら地域の人の協力は欠かせません。足繁く何度も通って地元の知り合いや相談できる人を増やしていくことが、実は近道だったりするのだと思います」

特にリタイア後に移住先を探している人には、人とのつながりを重視してほしいと言います。働いていた頃とは異なり、仕事などを介して人に出会う機会がない分、事前に知り合いを増やしておくことが移住後の暮らしの支えになると岸さん自身が実感しているそう。一方、実際の住み心地においては、車移動が多くなり、歩いて行ける範囲が少なくなったくらいで、以前とそれほどの変化は感じていないとのこと。

「生活に必要なインフラは十分に整っていますし、今の時代、インターネットがあればさみしくないです。かえって、周囲に民家がない分、窓を開け放して大音量で音楽を聴けるのは醍醐味のひとつですね」

普段の買い物は車で15分ほどの南会津町内へ、やや大きい買い物は1時間ほどの会津若松市や白河市などを利用。さらには週に2回はボウリングをするために郡山まで通っているというアクティブさで、「今のところ理想の暮らしができています」と満足げな岸さん。適度に地域に馴染み、悠々自適な毎日を送る姿からは、移住によって得た第二の人生を楽しむ、大人の余裕が感じられました。
岸さんが撮影したアンドロメダ大星雲
━━取材を終えて
南会津周辺は、リタイア後の第二の人生を楽しむために移住される大人の方が比較的多い印象です。
岸さんはご自分の経験を「特殊なケースなので参考にならないかも」とおっしゃっていましたが、人とのコミュニケーションや新しい出会いに積極的なことは、移住を成功させるためのもっとも大切な要素であることに変わりありません。移住先で夢を実現したい人、またリタイア後の移住について考えている人は岸さんのもとを訪れてみてはいかがでしょうか。

(掲載:2020年10月)

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